糖尿病網膜症 diabetic retinopathy
糖尿病網膜症は、日本における失明原因として最も多い症例と言われています。
生活習慣病である糖尿病は様々な病気を引き起こしますが、眼にも大きな影響を与えるのです。
(1)単純糖尿病網膜症
(2)増殖糖尿病網膜症
4.網膜症の進行と血糖コントロールの関係
糖尿病網膜症に関して、ご説明をさせていただきたいと思います。
1.糖尿病網膜症の発症率
糖尿病にかかり5年すると約20%、10年すると約30%の人が糖尿病網膜症を発症すると言われています。Ⅱ型糖尿病だけを見てみると、増殖網膜症の発生は、インスリンを使っている人では、8年で約20%ですが、インスリンを使う必要のない軽症の人ではまず発生していません。
Ⅰ型糖尿病の患者さんは発生率が高く、15年で約100%に網膜症が出現します。増殖網膜症だけに限って見ますと20年で約50%の人に発生します。
2.糖尿病による合併症の原因
血液中の糖分が高値になると、ソルビトール経路による糖代謝が増え、多量のソルビトールが作られるようになり、これが血管細胞や水晶体上皮細胞に蓄積されます。ソルビトールは分解されにくいため細胞に長期にわたり存在し、細胞を傷害して網膜症や、白内障、腎障害などを引き起こします。細胞を傷害して網膜症や、白内障、腎障害などを引き起こします。
3.糖尿病網膜症とは?
これは、糖尿病による代謝異常によって網膜の毛細血管(動脈と静脈の間をつなぐ細い血管)が障害されることから始まります。毛細血管が弱くなると、ここから網膜内に出血が発生したり、また、血管中の水分や脂肪が漏れ出て網膜が水でふやけた状態(浮腫)になったりします。このふやけた状態が長い間続くと、網膜は次第に悪くなってゆきます。
初期の間は網膜症の進行は遅く、数年から10年以上もかかって徐々に進行するものが多いですが、後期になると急速に進行するものが増えてきます。
経過の遅い単純糖尿病網膜症(非増殖糖尿病網膜症)に、新生血管が生えてくることがあります。新生血管が現れると、増殖糖尿病網膜症という呼び名に変わるのですが、こうなると経過が早くなって大抵のばあい、治療しないと2〜6年で失明してしまいます。
単純糖尿病網膜症の出血は網膜内への出血ですが、増殖糖尿病網膜症ではしばしば眼内に出血(硝子体出血)します。こうなると光が網膜に届かなくなって見えなくなります。
網膜は,浮腫が長い間続いていると次第に悪化します。浮腫の原因となっている部分をレーザーで凝固(レーザー光凝固)していく治療が行われます。
しかし毛細血管はなかなか凝固されにくく、数が多くなると凝固できなくなります。最も大切なのは、網膜症を発生させないことであり、もし発生した場合には、ごく初期段階で厳格な血糖コントロールを行うことが一番です。
網膜症はある程度進行してしまうと、いかに厳格に糖尿病の治療を行っても、網膜症の進行を止めることができなくなります。網膜症は一度発生すると消えることなく、糖尿病と診断された人は、網膜症がない段階でも年1回以上は眼科で眼底検査を受けることをお勧めします。
増殖糖尿病網膜症は、別名を悪性網膜症といって放っておくと、多くは2〜6年で失明します。これは網膜上や視神経乳頭上に新生血管が生えていくこと(Ⅰ期)で始まります。新生血管は1本でも出現すると急速に数が増加します。
新生血管は正常な血管と違い弱く、血液中の蛋白やフィブリンが大量に溢れ出て、新生血管の周りに線維組織(Ⅱ期)を作ります。
この形成された線維組織は、硝子体の裏側に固く付着するため、繊維組織ができると網膜と硝子体はこれによって固く結びつけられるようになります。
硝子体は玉子の白身のようなもので、元来は眼球いっぱいに詰まっているのですが、糖尿病網膜症があると硝子体がしばしば編成して収縮し、眼底から浮き上がります。これを後部硝子体剥離と言います。
線維組織が作られてから、後部硝子体剥離が起こると、網膜が引っ張られ、牽引性網膜剥離を起こしたり、網膜の血管が引き裂かれて大出血を起こしたりします(Ⅲ〜Ⅳ期)。このようになると見えなくなります。
4.網膜症の進行と血糖コントロールの関係
良好な血糖のコントロールが網膜症の経過に良い影響を与えるのは、3年経過してからと報告されています。
網膜症は糖尿病が10〜20年続いて発生してくるものですから、血糖状態を短期間良くしたからといって効果があるものではありません。